- 投稿日 2025/12/17
- 更新日 2025/12/19
視覚障がい者に配慮したバリアフリーの例とは?身近にある取り組みを紹介
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視覚に障がいのある方が安心して暮らせる社会を実現するには、物理的なバリアだけでなく「見えにくさ」に対する理解や配慮が欠かせません。
本記事では、視覚障がい者の方々が直面する課題と、それに対してどのようなバリアフリーの取り組みがなされているのかを、具体例を交えながらわかりやすく紹介します。
生活の中で見逃されがちな障壁に気づき、誰もが安心して暮らせる環境づくりへの第一歩としてご活用ください。
目次
視覚障がいとは何か/どのような種類があるか?
視覚障がいと聞くと「まったく見えない状態(全盲)」を想像する方が多いかもしれませんが、実際には視覚の機能低下にはさまざまな段階があります。
このセクションでは、視覚障がいの定義や分類について解説し、どのような「見えにくさ」が存在するのか、正しい理解を深めることを目的としています。
視覚障がいの定義と分類
視覚障がいとは、目の機能に障がいがあり、日常生活や社会活動に制限が生じる状態を指します。
日本の障害者基本法では「身体障害者」の一つとして定義され、身体障害者手帳の交付対象ともなります。
視覚障がいは大きく以下の2つに分類されます。
- 全盲(ぜんもう): 光を感じない、または物の形や動きが一切見えない状態。視力が手動弁以下(手を顔の前で振っても見えない)とされることが多いです。
- ロービジョン(弱視): 眼鏡やコンタクトレンズなどの矯正をしても視力が十分に出ず、日常生活に支障が出る状態。視力の程度や視野の狭さ、明暗の区別のしづらさなど、症状は多岐にわたります。
このように、視覚障がいには多様な状態があるため、一括りにするのではなく、「どう見えにくいのか」を理解することが支援や配慮の第一歩となります。
ロービジョンの多様性と困りごと
ロービジョンの方は、光の加減や距離感、コントラストにより「見えるもの」と「見えないもの」が日々変化します。
たとえば、晴天時の屋外ではまぶしさによりほとんど何も見えなくなったり、逆に暗い室内では段差が認識できなかったりするケースがあります。
また、視野が狭くなることで人とすれ違うときに肩がぶつかってしまったり、障害物に気づけず転倒する危険もあります。
こうした「見えにくさ」は外見からは判断しづらく、周囲の理解が得られにくいことも、当事者にとっての大きなバリアとなっています。
ロービジョンの方々にとっては、「声かけ」「情報提供」「物理的配慮」のすべてが必要不可欠です。
視覚障がい者にとってのバリアとは/実際の生活場面での困りごと

視覚障がい者が日常生活を送るうえで直面する「バリア」は、段差や障害物といった物理的な障壁だけではありません。
見えにくさを前提としていない情報提供の方法や、周囲の理解不足といった「社会的・心理的なバリア」も大きな障壁となります。
このセクションでは、実際の生活場面で視覚障がい者がどのような困難を抱えているのか、具体的な例を交えて紹介します。
移動時に感じる危険と不便さ
視覚障がい者にとって、移動は日常の中でも特に多くのバリアに直面する場面です。
以下のような問題が報告されています。
- 点字ブロックの妨害: 誘導用ブロックの上に駐輪された自転車や看板などが置かれているケースは全国的に多く、進行方向が妨げられ、歩行に危険が及びます。
- 音声案内の不備: 駅や公共施設の音声案内が不十分だったり、設置場所が分かりにくかったりすることで、視覚情報に頼れない方が正確に情報を得られない場面が多くあります。
- 段差や障害物の存在: 歩道の段差や階段の境目が見えづらく、つまずきや転倒の原因になることもあります。
東京都の調査では、「点字ブロックの上に物が置かれているのを見たことがある」と答えた人が6割以上に上る結果が出ており、実際に視覚障がい者の通行を妨げるケースが多発していることが分かります。
情報取得やコミュニケーションのバリア

視覚障がい者にとっては、文字情報を読み取ることや、視覚的な案内を頼りにすることが難しいため、情報取得やコミュニケーションにも障壁があります。
- 案内表示が視認しづらい: 駅や病院などの施設で、掲示板やデジタルサイネージの文字が小さすぎたり、背景とのコントラストが低かったりして見えにくいという声があります。
- 書類や印刷物の読み取り: 病院や行政の窓口などで渡される書類が一般的な文字サイズ・レイアウトで作られており、ロービジョンの方が読めないケースがあります。
- コミュニケーションの誤解: 視線や表情から意図を読み取ることが難しく、周囲の人との意思疎通がうまくいかないこともあります。
このような情報やコミュニケーション上の課題は、「伝える側が見えることを前提として設計している」という根本的な認識のズレに起因しています。
視覚障がい者が日常生活を安心して送るには、こうしたバリアの存在を理解し、改善する意識が社会全体に求められています。
公共空間・交通・建築におけるバリアフリーの現状と法制度

視覚障がい者にとってのバリアを解消するには、施設や交通機関などのハード面の整備が欠かせません。
日本では法律や制度によってバリアフリー化が進められてきましたが、現場ではまだ十分とはいえない課題も残されています。
このセクションでは、視覚障がい者に関連するバリアフリー施策の法制度と、公共空間・交通・建築における現状を解説します。
国内法制度・ガイドラインの概要
日本では、視覚障がいを含む障がいのある方々が安全に暮らせる社会を実現するために、以下のような法制度が整備されています。
- バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律): 2006年に施行され、駅・道路・公共施設・建築物などにおける移動の円滑化を目的としています。
- 移動等円滑化ガイドライン: 国土交通省が策定したガイドラインで、誘導ブロックの設置方法、点字表示、音声案内などの具体的な整備基準を定めています。
- 建築基準法のバリアフリー関連規定: 公共性の高い建築物には、視覚障がい者への配慮を含むバリアフリー設計が義務づけられています。
こうした法制度は、視覚障がい者を含む多様な人々が安全に移動・利用できる社会の基盤を築くことを目的としていますが、現実には制度と運用の間にギャップが生じている場面も少なくありません。
最新調査で見える「視覚障がい者対応」の課題
国や自治体が実施する調査からは、バリアフリー整備の進捗だけでなく、その不十分さや課題点も浮き彫りになっています。
例えば、国土交通省の報告によると、点字ブロックの敷設率や音声案内の導入は年々改善されている一方で、ロービジョン者への対応が遅れているという指摘があります。
たとえば、色のコントラストや段差の視認性といった配慮は、法的な義務ではなく努力義務にとどまっているケースも多く、実際の整備状況にばらつきがあります。
また、駅やバスターミナルなどでの情報提供においては、可変表示板の位置が高すぎたり、音声案内が周囲の雑音で聞き取りづらいなど、設備の存在だけでは不十分であるという声もあります。
実際に使う視覚障がい者の立場から設計・評価されていない事例も多く、ハード面の整備と実用性のギャップが課題とされています。
さらに、地方の公共施設や民間施設では、バリアフリー設計そのものが進んでいない地域も存在しており、都市と地方での格差も見逃せません。
バリアフリー整備は「設置すること」が目的ではなく、「誰もが使いやすいこと」が本来の目的であることを再認識する必要があります。
情報・コミュニケーションのバリアとICT/支援技術の活用
視覚障がい者にとって、移動や空間だけでなく「情報を得ること」そのものにも多くの障壁があります。
情報が視覚に依存して設計されている場面では、文字が見えない、操作画面がわからないといった課題が生じ、日常生活や社会参加に大きな影響を与えます。
このセクションでは、視覚障がい者が直面する情報・コミュニケーション上のバリアと、それを解消するために活用されているICTや支援技術の動向を解説します。
情報アクセスにおける課題(読書・案内表示・ウェブ等)
現代社会では、情報の多くが「視覚」を通じて伝えられています。
視覚障がい者にとって、情報を得る手段が限定されることは、生活のあらゆる場面で大きなハンディキャップとなります。以下に代表的な課題を挙げます。
- 案内表示の視認性不足: 駅や施設の案内サインが小さな文字や色の薄いデザインになっており、ロービジョン者には読み取れないことがあります。また、案内板の位置が高すぎる場合や、光の反射で文字が見えないという問題もあります。
- 紙媒体・印刷物へのアクセス: 病院や行政窓口で配布される資料や書類が標準の文字サイズで印刷されており、拡大読書器やルーペがなければ読めない方もいます。
- インターネット利用時の障壁: ウェブサイトがスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)に対応していない、画像に代替テキスト(alt属性)がない、ボタンやリンクが視認しにくいといった設計は、視覚障がい者にとっての情報取得を妨げる要因です。
2021年に国立国会図書館が行った「視覚障がい者の読書環境に関する調査」では、多くの当事者が複数の情報取得手段を併用していることが明らかになりました。
点字、大活字、音声、電子書籍、拡大読書器などの選択肢が増えてはいるものの、社会全体が「見えること」を前提に作られている以上、情報格差は依然として大きな課題です。
ICT・補助機器・技術による支援の動向

視覚障がい者の情報アクセスを支える技術は年々進化しており、ICTの発展により、かつては困難だったことも可能になりつつあります。ここでは、代表的な支援技術と活用事例を紹介します。
- 音声読み上げソフト(スクリーンリーダー): PCやスマートフォンに搭載され、画面上の文字情報を音声で読み上げる機能。代表的なソフトには「VoiceOver(iOS)」「TalkBack(Android)」「NVDA」「JAWS」などがあります。
- 点字ディスプレイ・点字プリンター: デジタル情報を点字に変換して表示・出力する機器。視覚情報を直接点字で得られるため、文字を読む訓練を受けた視覚障がい者にとって有効です。
- AIナビゲーション・画像認識アプリ: スマートフォンのカメラで周囲を撮影し、物体や文字を認識して音声で案内するアプリが登場しています。例えば、買い物中に商品のラベルを読み上げたり、バス停の時刻表を音声化するなど、日常生活での活用が進んでいます。
- 駅や施設での音声案内システム: 音声による情報提供が求められる公共空間では、赤外線やBluetoothを活用した音声案内システムが導入されつつあります。機器とスマートフォンを連携させ、施設内の位置情報や誘導音声を提供するサービスも増えています。
こうした技術の発展は、視覚障がい者の情報アクセスに大きな可能性をもたらしますが、同時に「対応している施設・場面が限られる」という課題もあります。
技術は整っていても、それを活用できる環境や社会の理解が伴わなければ、本当の意味でのバリアフリーにはつながりません。
私たちができる配慮・「心のバリアフリー」の実践
バリアフリーは施設や設備だけで成り立つものではありません。見えにくさや不自由さに対する「気づき」や「思いやり」といった心の配慮も、視覚障がい者にとっての大きな支えになります。
このセクションでは、私たち一人ひとりが日常生活のなかで実践できる配慮や、周囲の意識を高めるための工夫について紹介します。
日常での具体的な配慮ポイント
視覚障がい者への支援や配慮は、特別な知識がなくても誰にでもできるものです。以下のような行動は、日常のなかで簡単に取り入れられ、当事者の安全と安心につながります。
- 点字ブロックの上に物を置かない: 誘導用ブロックの上に自転車や看板などを置くと、歩行の妨げになります。無意識に置いてしまっている人も多いため、意識して避けることが重要です。
- 声かけの実践: 困っていそうな視覚障がい者を見かけたときは、「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけてみましょう。無理に触れたり引っ張ったりせず、まず言葉で確認することが大切です。
- 位置関係や状況を説明する: 案内する際には、「3メートル先に階段があります」「右側に手すりがあります」など、具体的に伝えると相手が状況をイメージしやすくなります。
- 優先スペースの譲り合い: 視覚障がい者は外見から障がいが分かりにくいこともあるため、白杖(はくじょう)や補助犬を連れている方を見かけたら、積極的に席を譲る配慮が望まれます。
東京都が実施した「心のバリアフリーに関する意識調査」によると、「点字ブロックの上に物を置くのを見たことがある」と答えた人は65.1%にのぼります(東京都調査、2020年)。
これは、配慮の必要性がまだ十分に理解されていないことを示しています。まずは「知らなかった」から「気をつけよう」へ、そして「行動しよう」へと意識を段階的に変えていくことが、視覚障がい者が安心して生活できる環境につながっていきます。
意識改革と周囲の理解を深めるために
「心のバリアフリー」は、私たち一人ひとりの意識の変化から始まります。しかし、日常的に視覚障がい者と接する機会が少ないと、どう配慮してよいか分からないという人も少なくありません。だからこそ、教育や情報提供を通じて、社会全体の理解を深める取り組みが重要です。
たとえば、東京都の調査では、心のバリアフリーを促進する有効な手段として、次のような方法が挙げられています。
- 学校教育での体験学習(77.2%)
- 企業や自治体での職員研修(61.4%)
- SNSやメディアでの情報発信(58.3%)
こうしたアプローチによって、「視覚障がい」というテーマが特別なものではなく、日常生活に根づいた話題として共有されていくことが期待されます。
また、地域の防災訓練やまちづくりのワークショップに視覚障がい者の参加を促すことで、当事者の声を活かした「共生の街づくり」が進むきっかけにもなります。
誰かの役に立ちたいという気持ちが、ほんの一歩の配慮や声かけにつながり、それが当事者の安心と社会の優しさに直結する――それが心のバリアフリーの本質です。
より住みよい社会へ/これからのバリアフリーと視覚障がい

視覚障がい者にとってのバリアフリーは、段差をなくすだけの取り組みではありません。
情報の届け方、環境設計、そして何より「周囲の理解と配慮」がそろって初めて、真のバリアフリー社会が実現します。
本記事でご紹介した具体例や課題を通じて、視覚障がいに対する理解を少しでも深めていただけたなら幸いです。
今、私たちにできることは、小さな気づきと行動の積み重ねです。点字ブロックをふさがない、困っている方に声をかける、ウェブや施設が視覚障がい者にも使いやすい設計かを見直す――そんな一歩が、住みよい社会をつくっていきます。
まずは身近な環境に目を向けて、「見えないバリア」に気づくところから始めてみませんか?関心を持たれた方は、関連団体の資料を調べたり、他の関連記事を読むことで、さらに理解を深めることができます。
