- 投稿日 2025/12/18
- 更新日 2025/12/19
バリアフリー お風呂を実現する方法 ~安全性と快適性を両立するポイント~
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高齢化社会の進展とともに、お風呂のバリアフリー化への関心が高まっています。
浴室は転倒事故が多く、特に高齢者や障がいがある方にとっては、毎日の入浴が大きなリスクとなる空間です。
本記事では、「バリアフリー お風呂」を実現するための設計原則、具体的な設備、リフォーム時の注意点、さらには実例まで幅広く解説します。
安心・安全に入浴できる空間づくりを目指している方に、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
目次
バリアフリーお風呂設計の基本原則
バリアフリーなお風呂をつくるうえで最も重要なのは、利用者の立場に立った設計です。
特に高齢者や障がいがある方が安全かつ快適に使えるよう、事前の動線設計や設備配置が重要になります。
この章では、基本となる設計方針や配慮点について解説します。
ユニバーサルデザインの考え方
バリアフリーお風呂の設計では、「ユニバーサルデザイン(UD)」の概念が土台になります。
ユニバーサルデザインとは、年齢や身体的条件にかかわらず、誰もが使いやすい空間をつくるという考え方です。
単なる障がい者対応にとどまらず、すべての人にとって使いやすいことを目指します。
たとえば、浴室における手すりの設置は、高齢者だけでなく、転倒の危険がある妊婦や小さな子どもにも役立ちます。
また、またぎやすい低い浴槽や滑りにくい床材は、すべての利用者の安心感につながります。
つまり、特定の人に限定するのではなく、「誰にとってもやさしい設計」を心がけることが大切です。
加えて、操作パネルの配置や、水栓の位置も重要です。立ったままでも、座った状態でも使いやすいように高さを調整し、視認性の高いデザインにすることで、誰もが使いやすいバスルームが実現します。
バリアフリーとは、制限をなくすことだけでなく、利用の自由度を広げる設計思想でもあるのです。
高齢者・障がい者に配慮した動線設計
お風呂のバリアフリー化では、空間そのものの動線(動きやすさ・移動しやすさ)に注目する必要があります。
高齢者や障がいがある方は、わずかな段差や空間の狭さでも転倒や移動の負担につながるため、安心して動けるレイアウトが求められます。
まず、脱衣所から浴室へのアクセスがスムーズであることが前提です。
段差がある場合はスロープを設けたり、床の高さをそろえることで移動が楽になります。
浴室内では、洗い場・シャワー・浴槽までの動線をなるべく一直線かつ広く保つことが理想です。
視覚的な誘導ラインや照明も、安心感の向上に寄与します。
また、動作補助のための手すりを配置することで、立ち上がりや座り動作のサポートが可能になります。
洗い場と浴槽の間、入口周辺、壁面など、利用者の行動に応じて適切な位置に手すりを設置する設計が重要です。
さらに、車いす利用者のためには、洗い場に車いすが入れるスペースを確保し、Uターンや方向転換が可能な最低限の回転半径(1.2m程度)も考慮しましょう。
こうした配慮により、安心して入浴できる「使いやすい動線」を実現できます。

具体的な設備・仕様案(手すり・床材・浴槽など)
バリアフリーなお風呂を実現するうえで、設備や仕様の選定は極めて重要です。
ここでは、安全性・快適性を両立するために注目すべき代表的な設備として、手すり・床材・浴槽に焦点を当て、それぞれの選び方や設置のポイントを紹介します。
手すりの種類と設置位置
手すりは、入浴時の立ち座りや移動を支えるために欠かせない設備です。
設置場所や使いやすさを考慮して適切に配置することで、転倒リスクを大きく軽減できます。
まず、手すりの形状には、縦手すり、横手すり、L型手すりなどがあり、それぞれ使用目的に応じて使い分けます。
たとえば、立ち上がりには縦手すり、移動には横手すり、洗い場から浴槽への動作補助にはL型手すりが有効です。
設置場所の例としては、以下のようなポイントが推奨されます:
- 浴室出入口付近(転倒しやすい箇所)
- 浴槽のまたぎ部分
- 洗い場の壁面
- 脱衣所との境目
滑りにくい床材・防水仕様
浴室内での転倒は非常に多く、特に床材の選び方によってリスクは大きく変わります。
バリアフリー化を進める上で、滑りにくさと安全性を備えた床材の選定は欠かせません。
おすすめの床材には以下のようなタイプがあります:
- ノンスリップ加工済みのタイル
- 表面に凹凸を設けた滑り止め仕様のシート床
- 柔らかくクッション性のある樹脂製床材
これらは水に濡れた状態でも滑りにくく、足元が安定しやすい設計になっています。
また、床材の排水性能も重要な要素です。
排水が悪いと水たまりができて滑りやすくなるため、適度な傾斜と排水口の位置設計も忘れてはいけません。
防水性能については、施工時にしっかりとした防水処理を行うことが前提です。
万が一の漏水トラブルを防ぐため、浴室の防水層やシーリング材の管理・点検も定期的に実施することが望ましいでしょう。
視覚障がい者にとっては、文字情報を読み取ることや、視覚的な案内を頼りにすることが難しいため、情報取得やコミュニケーションにも障壁があります。
- 案内表示が視認しづらい: 駅や病院などの施設で、掲示板やデジタルサイネージの文字が小さすぎたり、背景とのコントラストが低かったりして見えにくいという声があります。
- 書類や印刷物の読み取り: 病院や行政の窓口などで渡される書類が一般的な文字サイズ・レイアウトで作られており、ロービジョンの方が読めないケースがあります。
- コミュニケーションの誤解: 視線や表情から意図を読み取ることが難しく、周囲の人との意思疎通がうまくいかないこともあります。
またぎやすい浴槽・段差解消方法
浴槽の「またぎ動作」は、バリアフリー設計における最重要ポイントの一つです。特に高齢者や障がいがある方にとっては、浴槽の高さが大きな障害となり、転倒リスクが高まります。
バリアフリー対応の浴槽としておすすめなのは、「またぎ高さが低い」タイプの浴槽です。
具体的には、40cm前後の低い浴槽や、出入り口がカットされた形状のものが安全性に優れています。
また、足を高く上げずにスムーズに出入りできる「入りやすい浴槽フチ形状」もあります。
段差解消については、以下のような方法が考えられます:
- 洗い場と浴槽の床の高さをそろえる
- 浴槽周囲にステップを設ける
- 浴槽脇に座ってから足を入れられるスペースを確保する
さらに、安全性を高めるためには、浴槽の出入り口付近に手すりを設置したり、入浴動作をサポートする「バスボード」や「浴槽内ベンチ」などの補助器具も有効です。
出入口・ドア・間口の配慮と有効幅員
バリアフリーなお風呂において、浴室の出入口は“最初の関門”とも言える重要なポイントです。
特に車いす利用者や歩行補助が必要な方にとっては、ドアの開閉や出入り時の段差が移動のしやすさを大きく左右します。
この章では、浴室の出入口に関する幅員・ドア形式・段差対策について詳しく解説します。
出入口の幅・ドア形式
浴室の出入口を設計する際、最も意識すべきなのが開口幅の確保です。
とくに車いす使用者の利用を考えると、有効幅員(実際に通れる幅)で75~80cm以上が理想とされています。
出入口が狭すぎると、介助者が付き添う場合や福祉機器を使う場合に通行が困難になり、毎日の入浴が大きなストレスになります。
介護を前提とした住宅では、90cm程度の幅を確保するケースも少なくありません。
また、ドア形式も重要です。バリアフリー対応では、以下のドアタイプが推奨されます:
- 引き戸:開閉時にスペースを取らず、開けっ放しでも邪魔にならない
- 折れ戸:開く方向のスペースが少なく済むが、間口がやや狭くなることも
- スライド式ドア:力をかけずに開閉しやすく、連続した動線に向いている
これらは、従来型の「開き戸(ドアを前後に押すタイプ)」に比べて、出入口の確保や介助時の利便性が大幅に向上します。
ドアノブも、握りやすいバータイプやプッシュハンドルなどを選ぶと、開閉の負担を軽減できます。
段差解消・スロープ活用

出入口に段差があると、転倒の危険性が高まり、特に濡れた床では重大な事故につながることがあります。
浴室のバリアフリー化では、段差を極力なくす設計が基本です。
一般的に、脱衣所と浴室の床面に高低差があるのは水漏れを防ぐためですが、防水性の高い床材や適切な排水構造を採用すれば、床面をフラットにすることも可能です。
もし段差を完全に解消できない場合には、以下のような工夫が有効です:
- 緩やかなスロープの設置(車いすや歩行器もスムーズに通れる傾斜)
- 脱衣所側に踏み台や昇降台を設置(ただし滑り止めや固定が必須)
- 段差のエッジを斜めにカットしてつまずきを防止
また、スロープを導入する場合は、滑りにくい素材を使い、勾配はできるだけゆるやか(1/12程度)に設計することが求められます。手すりを併用することで、さらなる安全性の確保が可能です。
移動補助装置と福祉機器の活用
入浴時の動作には立ち上がりや方向転換、浴槽の出入りといった負担が多く、高齢者や障がいがある方にとって大きな障壁になります。
こうした負担を軽減するために、各種の補助装置や福祉機器を導入することで、安全かつ自立した入浴が可能になります。
この章では、代表的な機器とその活用方法について解説します。
浴室リフトや昇降機能付き浴槽

浴室リフトや昇降機能付き浴槽は、入浴時の移乗をサポートする福祉機器として非常に効果的です。
体の自由がきかない方でも、安全に浴槽へ入ることができ、介助者の負担も軽減できます。
浴室リフトは、座面に座ったまま電動または油圧の力で上下移動ができ、浴槽の縁をまたぐ動作を不要にします。
壁付け型、天井吊り下げ型、据え置き型などがあり、利用者の状態や住宅の構造に応じて選定されます。
一方、昇降機能付き浴槽は、浴槽そのものが昇降し、入浴時には浴槽の高さを下げて入りやすくし、入浴後に持ち上げて湯をためる仕組みです。
ホテルや介護施設でも導入例が増えており、自宅への設置も徐々に進んでいます。
これらの機器は、設置にあたりスペースや床強度、電源の有無などの確認が必要ですが、入浴の安全性と快適性を大きく向上させる手段として非常に有効です。
浴室内車いす・シャワーチェア・スリング利用
バリアフリー浴室において、移動・姿勢保持の補助を行う機器として「浴室内専用車いす」や「シャワーチェア」「スリング(吊り具)」の活用も注目されています。
まず、「浴室内車いす」は、防水仕様で濡れても錆びにくい素材で作られており、洗い場まで安全に移動するためのツールです。
床が滑りやすい浴室内でも、ブレーキ付きタイヤや滑りにくいゴム製車輪を備えているものが多く、安全性が高い設計です。
「シャワーチェア」は、座って体を洗う際に使ういすで、背もたれやひじ掛け、背中の傾斜調整機能などがあるタイプもあり、体の状態に応じて選ぶことができます。
立ち上がりにくい方には、ひじ掛け付きのものが特に有効です。
また、スリングリフトは、ベッドや車いすから浴室内のイス、あるいは浴槽内へ安全に移乗させるための吊り下げ式の装置です。
天井にレールを設置するタイプや移動式のポータブルタイプがあり、介助の手間を大きく減らすことができます。
これらの福祉機器は、介護者・利用者の負担を減らし、入浴動作の自立性を支える強力なサポートツールです。
導入に際しては、使う人の身体状況や浴室スペースを踏まえて適切な製品を選ぶことが重要です。
バリアフリーお風呂リフォームの進め方と注意点
バリアフリーのお風呂を実現するには、設計や設備選びに加え、どのようにリフォームを進めるかという計画も極めて重要です。
この章では、段階的な進め方、費用の目安、見積もりのコツ、そして施工時の注意点など、リフォーム成功のために押さえるべきポイントを解説します。
段階的に改善する方法
予算や時間の制約、住宅の構造的な制限がある場合は、一度にすべての設備を入れ替えるのではなく、段階的なリフォームが現実的です。
実際、多くの家庭で「必要な箇所から優先的に改善する」という選択がされています。
たとえば、次のようなステップが考えられます:
- 初期段階:手すりの設置・床材の滑り止め加工
- 中期段階:浴槽の交換や入口段差の解消
- 最終段階:浴室リフトやスロープなどの大型機器の導入
このように段階的に改修を行うことで、利用者の身体状況の変化に柔軟に対応でき、費用面の負担も軽減できます。
また、生活動線の中で不便を感じる箇所を都度改善していくというアプローチも、実用的かつ継続的な安全確保につながります。
費用の目安と見積もりのポイント
バリアフリー対応のお風呂リフォームにかかる費用は、工事の内容や規模によって大きく異なります。以下は一般的な工事別の費用目安です(あくまで概算です):
| 工事内容 | 費用目安(税抜) |
| 手すりの設置 | 2万円〜5万円 |
| 滑りにくい床材への変更 | 5万円〜15万円 |
| 浴槽のまたぎ低減タイプに交換 | 10万円〜30万円以上 |
| 出入口段差の解消・ドア交換 | 5万円〜20万円 |
| 浴室リフト・昇降機器の導入 | 30万円〜100万円以上 |
これらはあくまで目安であり、地域や業者によっても差があります。複数社から相見積もりを取ることが重要です。
見積もり時のチェックポイント:
- どの工事にいくらかかっているか明細が明確か
- 保証やアフターサポートの有無
- 使用する製品の仕様とメーカー名
- 必要な補助金・助成金申請に対応しているか
また、介護保険制度の「住宅改修費支給制度」や、自治体による高齢者住宅改修補助金など、公的な支援制度の活用も検討すると良いでしょう。

施工上の注意点とメンテナンス配慮
リフォーム工事を進める際は、見落とされがちな施工面や将来的なメンテナンスにも注意を払う必要があります。
特にバリアフリー設備は、安全性を高めるものだからこそ、中途半端な施工は逆にリスクを生むことになります。
施工時の注意点:
- 手すりの強度と下地補強:体重をかけても外れない設置が必要
- 防水処理の徹底:特に段差解消や床面の変更時に水漏れ対策を怠らない
- 配管や電気工事との干渉確認:特に昇降機器などを導入する場合
また、長期使用を想定した素材選びや設計も重要です。
たとえば、床材の目地幅が広すぎると汚れがたまりやすく、清掃の手間が増えることもあります。
手すりの素材も、握り心地だけでなくサビにくさや耐久性も考慮しましょう。
さらに、家族構成の変化や介護度の進行によって設備が不要になった場合の撤去や再利用のしやすさも、計画段階で確認しておくと安心です。
成功事例・設備導入例から学ぶ
実際にバリアフリー化されたお風呂の事例を見ることで、自宅に取り入れる際のイメージが具体的になります。
この章では、宿泊施設や一般住宅での設備導入例を通じて、効果的なアイデアや注意点を紹介します。
ホテル・旅館でのバリアフリー入浴設備例
観光施設や宿泊施設でも、バリアフリー対応の浴室が増えており、その設計は自宅改修の参考になります。とくに高齢者や障がいがある旅行者向けに、安全かつ快適な入浴空間を整備している施設が注目されています。
たとえば、静岡県下田市の旅館「下田大和館」では、昇降機能付きの露天風呂を導入しています。
利用者は座った状態でリフトに乗り、スムーズに浴槽へ移動できる仕組みになっており、介助者の負担も軽減されます。
このような事例は、自宅の浴槽改修やリフト導入を検討する際の参考になります。
また、バリアフリー温泉情報サイトなどでは、各地の宿泊施設が取り入れているスロープ式の浴室や手すりが充実した洗い場などの事例が紹介されています。
共通して見られるのは、「段差の排除」「広い動線の確保」「操作しやすい水栓レバー」などの工夫です。
このような実例は、専門業者がどのような工夫をしているか、どこに予算がかかっているかを知るうえで非常に有用です。
一般住宅での改修例
バリアフリーお風呂の事例は、公共施設やホテルだけでなく、実際の一般住宅でも多く存在します。とくに高齢者がいる家庭では、リフォームの一環として浴室の安全対策が実施されることが増えています。
一例として、東京都内の戸建住宅で行われた事例では、以下のようなステップで浴室の改修が行われました:
- 洗い場と浴槽の間にL型手すりを設置
- 出入口の段差をフラットに改修
- 床材を滑りにくいシート素材に変更
- 浴槽をまたぎ高さの低いタイプに交換
この改修により、ひとりでの入浴が難しかった80代の女性が、介助なしで浴室に入れるようになったとのことです。
工期は約1週間、費用は60万円ほどで、自治体の住宅改修補助金制度を活用しています。
また、マンションなどスペースが限られる住宅でも、コンパクトなシャワーチェアの導入や可動式手すりの設置などで、十分にバリアフリー化を図ることができます。
設計の工夫次第で、広さに関係なく快適な浴室空間をつくることが可能です。
このような事例から、自宅の状況や家族構成に応じて段階的かつ柔軟なリフォームを進めることが、実現性の高いバリアフリー化の鍵であることが分かります。
すべてを見直す視点と次のステップへ
これまで解説してきたように、バリアフリーのお風呂は、単に「段差をなくす」「手すりをつける」だけではなく、利用者の安全と快適性を第一に考えた総合的な設計が求められます。
設計思想から設備選定、導入ステップ、そして維持管理まで、すべての工程で“生活する人”の視点に立つことが重要です。
まずは、自宅の浴室を「どこが危険か」「どこを改善すべきか」という視点で見直してみましょう。
そして、必要であればチェックリストを作成し、リフォーム業者や専門家に相談することをおすすめします。
バリアフリーの浴室は、家族の将来を見据えた「暮らしのインフラ」とも言えます。
この機会に一度、浴室全体を見直し、安全で安心できる空間づくりを進めていきましょう。
必要に応じて、補助金制度の利用や無料相談サービスの活用なども検討すると、費用負担を軽減しながら理想的なリフォームが実現できます。
